今後更なる活性化が期待されるエンジニアコミュニティ。運営のスペシャリスト、松岡光隆、高町咲衣 両氏対談(中編)

近年活性化する、エンジニアコミュニティについて、スペシャリストの2人とトークする対談企画。

前編ではコミュニティ運営を始めたきっかけを中心に展開したが、中編の今回は、実際現場で二人が体感していること、コミュニティを盛り上げるために工夫している実践について話を聞いてみた。

 

 

 

 

コミュニティ運営はチームマネジメント。本質は仕事と同じ

 

福井:2年ほどコミュニティ運営をされている中で、大手の企業からアプローチされることもあるかと思うのですが、企業側としては松岡さんみたいな人材を広告、宣伝という意味で使うことにメリットを感じているのでしょうか。

 

 

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松岡:コミュニティ運営にもアプローチされる、されないものがあって、アマゾンのAWSに代表されるユーザーグループコミュニティの運営は比較的アプローチされやすいですね。

AWSは日本で一番大きいユーザーグループコミュニティだと思いますが、色んな支部があり、その支部の運営をやっていると「うちに来ないか」と分かりやすくオファーがかかるようです。

自分自身、コミュニティ運営をしていて感じるのは、1回イベントをやるだけでもタスクが大量にあるということです。

登壇者をまとめなくてはいけないし、チームマネジメントという意味で仕事と変わりません。要はマネジメントが自然とできるはず、ということが見込まれているのかもしれないし、

コミュニティ運営をするからにはコミュニケーションを取るのが苦手というわけではないだろうから、そういう人間を引き込むことができれば、企業としてもメリットは大きいと感じているかもしれませんね。

 

AWSに関しては、運営資金や懇親会の費用などをAmazonがバックアップしてくれるのもありますし、そこでコミュニティリーダーをやっているとAWSについて学ぶこともすごく多いので、結果としてAWSスペシャリストになれるという強みもあります。

普通の業界コミュニティを運営しても、身につくのは運営知識だけで、技術が学べるわけではないですから。

 

日々の業務がオンラインで完結しがちなエンジニアだからこそ、オフラインでのコミュニケーションを重視

 

福井:今の日本ではまだコミュニティ運営は職種として確立してないですもんね。

コミュニティを運営してきて何か変化を感じる部分や、参加したコミュニティでこんなことが変わったということはありますか?

 

松岡:意外と各コミュニティの中は変わっていなくて、やたらと初参加の方が増えたとか内輪ネタばっかりだなとかいうこともなく。

ただ、参加者は楽しいと言ってくれるし、登壇した後は、人からちやほやされてモチベーションも上がるのでマイナスなことは本当にないんですよ。

 

高町:私も、参加する人の種類も盛り上がり方もあまり変わっていないと思いますね。

ただ、エンジニアだと営業職なんかとは違って、外部に行って話すことも多くはないし、オフィス内で隣に人がいるのにSlackとかチャットで会話して…ってオンラインで完結してしまうことが多いので、オフラインでの情報交換ができるというのはすごくいいですよね。

 

松岡:そもそもなぜオフラインのコミュニティという形を取るのかと考えると、やはりそこは直にコミュニケーションを取ってもらいたいから、ということですね。

 

エンジニアリングやITが好きな人同士が集まるから会話もつまらなくはならないはずだし、楽しいというだけでも次の日の仕事にもつながるのかなって

 

福井:会社の中にいるだけでは新しい外部の知識を取りに行くことはなかなかできないので、会社側からも社員にもっと外に出ていけと言いたいところだと思うのですが、実際参加している人は、会社から言われて来ました人も多いですか?

 

松岡:「会社の命令で来た人いますか?」って手を上げさせるわけではないので、参加者が積極的に来たのか、強制で来たのかは分からないし、運営している側が一人一人会話して聞き出すしかないのですが、強制で。という人は今までほとんどいなかったと思いますね。

ただ、先ほどもお話ししたように、2年前とあまり何も変わっていないように見えるし、トータルでの人数は変わらないけれど、前回の参加より楽しんでいる方とか、SIerとか元々参加しないような人が比率的に増えてきたかのようには思います。

理想をいえば、そういう場に参加することを会社が推奨しているのならば、その人の資産=会社の資産なのだから、その人の残業代になっていたらなあ…って。まだそこまでは行ってないですけど。

 

高町:あと一言でITとは言っても色んなジャンルの人が来るので、特定の考えにとらわれず、色んなアイデアをもらえる楽しさもあります

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松岡:刺激を受けるために、ですよね。正直に言ってしまうと、1,2時間の勉強会でスキルが上がるって考えている人は甘いですよ。

 

福井:えっ、そうなんですか…

 

松岡:勉強会と言っても、プログラミングなんて自分で手を動かさないと分からないことの方が多いし、運営にしても実際やってみないと運営知識は身につかないものです。

どれだけ新しい技術の話をされても自分で実践してみないと、言葉が情報としてインプットされるだけで、スキルが上がることはないんですよね。

勉強会に参加して得たモチベーションでもって実践する、そしてはじめてスキルが上がるんだと思います。

だから、まず参加しないとスキルが上がるためのきっかけを得られない。それを「勉強会で学んできて、すぐ報告しろ」って考えている企業さんがあったらそれは間違いです。

皆さんのモチベーションを上げて自走できれば、あとはコミュニティに参加しなくても自分で調べてどんどん自走できるようになっていきます。

とはいっても、登壇者は「スキルが上がるため」という題目でプレゼン資料を作ってくれているから、かみ合ってはいるんですけど。

 

 

福井:モチベーションが上がらないとスキルも上がらないって、エンジニアの育成相談でも使えるフレーズですね。

 

高町:特にIT系は男性に比べて女性が少ないので女性だけのコミュニティもあって、女性同士で話すとそれだけでモチベーションが上がったりもしますね。

普通のコミュニティだとどうしても男性の比率が多いので、こういうものを作りたいとか人脈を広げたいと思っても、臆してしまうこともあるみたいで。

 

松岡:なぜコミュニティをやりたいからというと、ちょっときれいごとかもしれないけど日本のIT系の底上げというか、やる気をあげたいからなんですよね。

外に出たいけどなかなか出られなくて困っている女性エンジニアの人もいて、そういう人がコミュニティに参加して、意識高い系のおじさんと出会ってもとっつきづらいじゃないですか。

あと、「私は営業なんですけど今日は勉強しに来ました」って参加しても見下されてしまうとか、僕自身もずっとCOBOLしかやっていなかったので、IoTに飛び込んだときは視線が冷たくて疎外感を感じましたね…。

そこで飛び込んでみてものを作ってみよう、実際作って登壇した後は、反応もがらりと変わりましたけど、それはそのコミュニティが楽しかったから学べたのだと思うし、何かしら自分が変わるきっかけはあると思います。

 

ただ、参加して知識は身についても、会が盛り上がらないとモチベーションにも繋がらないし、また楽しく参加したい、とか登壇してみんなから憧れのまなざしを受けたいって思わせるのは運営の技ですね。

会場にもよるし、懇親会にもよりますけど、最近は彼女に実際歌ってもらったりもしていますよ。

 

高町:あと芸人さんがきてネタを披露したりとか、コスプレやってみたりとか、色んなことにトライしていますね。

 

福井:「楽しい」という想いを持って帰ってもらうわけですね。

 

プラスなこともマイナスなことも、リアルタイムで感想をもらって次につなげていく

 

松岡:イベントの様子を動画で配信しています、とかアーカイブを残していますって言うこともできるけど、コミュニティってその場の楽しさを伝えてやる気を伸ばすものだから、オフラインで会ってその空気を感じてもらうしかなくて。

運営作業は地道だしカッコいいことをしているわけではないんですよ。自分が目立ちたいから運営するわけではなくて、参加者を楽しませたいからやるわけだし。

だから受付みたいにその日までの調整をする地味な作業をやりたいって前に出てくれるメンバーがいることにも感謝していますし、司会も大事なんですよね。

RPAなんかは運営の神って言われていますけど、本当に受付一つで印象が変わるので、運営メンバー集めが一番大事かもしれないです。

 

高町:初めて参加した場で居づらいなと感じたらもうあまり行きたくないって思うかもしれないから、運営している人の空気感はすごく出ると思います。

スマホからその場で投稿できる匿名式のアンケートがあるんですけど、回答結果に「受付の人が優しかった」と書いてあったこともありますし。

 

松岡:「今日は●●でしたねー」みたいにコメントが入ることもあるし、会場が暑かった寒かったでもいいし、マイナスな意見も次に繋がるから嬉しいですね。

ただそれも後になると面倒くさくなって忘れちゃうし、その場で挙手も難しいから皆さんの声をリアルタイムで拾って次に繋げていきたいと思っています。

 

 

 

今後更なる活性化が期待されるエンジニアコミュニティ。運営のスペシャリスト、松岡光隆、高町咲衣 両氏対談(後編)」に続く

 

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登壇者紹介
●松岡光隆(チャラ電Mitz)様
 コミュニティプロデューサー。コミュニティー運営芸人。
 Twitterhttps://twitter.com/CharaDenMitz


●高町咲衣 様
 IoT女子で複数のITコミュニティ運営に携わる声優・歌手
 ・Twitterhttps://twitter.com/takamachi1saki
 ・さきブログ:https://sakiot.com/