エンジニアのモチベーション、成長、問題解決を促すプラットフォームとして近年、活性化しているエンジニアコミュニティ。
コミュニティ運営のスポンサーとなったり、社員の参加を奨励するなど、この流れに肯定的な企業も散見されるものの、企業や組織が過剰に関与することがコミュニティの効果を阻害する結果を招くのではないかというリスクも孕んでいる。
エンジニアコミュニティ運営に携わり、市場動向にも明るい松岡光隆、高町咲衣 両氏と「これからのエンジニアや組織にとってコミュニティがどういう存在になっていくのか?」をテーマに対談を敢行した。
プレゼンの場ではコードも発表する。100のインプットよりも1回の登壇で得るものがある
福井:今日はありがとうございます。まず、松岡さん、高町さんがどのようなきっかけで今日のコミュニティ運営を始めたのか聞かせていただけますか?
松岡:最初に知り合ったのはIoTのハッカソンで、彼女はコンテストの司会をやっていて、僕はその審査員でした。それで2回くらい一緒になったのですが、名刺を見ると声優もやっているし、歌も歌えるしかつエンジニアをやっているという経歴はかなり特殊だなと。
コミュニティ運営とか登壇する人って特殊な人が多くて、同じことを発信するにして見栄えの問題とかで印象に残る、残らないってあるんです。
彼女は声もアニメボイスでまた印象に残るタイプだったので、僕が運営するRPAやIoTのイベントにも登壇してもらうようになりました。
福井:イベントやコミュニティに参加してみて思うのは、登壇することそのものに意味がありそうだなって。自分の考えややってきたことを整理するわけじゃないですか。
松岡:僕も100個インプットするよりも1回の登壇で得られるものが多いんじゃないかって思っていたところがあります。
僕はプログラミング系以外の発表が多かったので、尚更、考えをまとめるという側面が大きかったのですが、高町さんにとって、エンジニアとして資料にまとめて発表する過程で得られたものの中では何が一番大きかったですか?
高町:発表する際に、「やってみたら、とりあえずできました!」ではダメなので、全部説明できるようにしっかり調べつくすことが習慣になりました。
それが自分にとっても勉強になっていた、というのは過程で得たものの中では大きいですね。
松岡:エンジニアが登壇するときは「こういう構想があってこのような成果物ができました」ではなくて、プログラミングのコードも全部載せるんですよ。
コードをそのまま載せるのは勇気というか、美意識は絶対出ますよね。
コードにしても動きにしても、美しく見せるために意識するというのはただの請負で業務をこなしているエンジニアではなく、一皮むけたエンジニアじゃないとできないかもしれないです。
福井:最近コミュニティのトレンドとしてはLTが多いみたいですが、あれは一体何なのか教えてもらえますか?
プレゼンのトレンドなりつつある、LTとは?
高町:LIGHTNING TALKの略称で、自分が作ったものや製品を5分間で紹介して喋るっていうプレゼン形式ですね。
登壇するイベントによって15分~20分くらい喋ることもあるんですけど、5分で終わると、聞いている側も謎が残るんですよね。
だから登壇が終わったあとに、直接名刺を持って聞きにきてくれるという効果もあります。
松岡:ティザーの効果があるんですね。運営側として、そこは意識していない部分なのでなるほどって感じです。
一人あたりの持ち時間が5分だと、よりたくさんの人が登壇できるというのは完全に運営側のメリットです。
たとえばプロの司会者なら持ち時間40分でも、起承転結を繰り返して参加している皆さんが飽きないように工夫してくれると思うのですが、一般の方にそこまでは期待できないじゃないですか。でも5分だったら詰め込むことは可能かなと。
福井:場がグズグズになりにくいということですね。
松岡:そうですね。テンポよく8人×5分で40分にしたほうが盛り上がりも8回味わえていいだろうと思います。
一人で40分話すとしたら、話したい内容はあるにしても、まず資料を作ることが大変であるのにプラスして、40分全てが必要な情報なのか?という問題もあります。
あとで資料をもらって見れば分かる内容なのだとしたら、それは説明資料なだけでプレゼンではないんですよ。でもやりたいのはプレゼンであって、つまり”魅了する”こと。
資料がなくてもその人の思いが伝わることが大事なので、40分の内容を5分でおさめようとすれば、本当に必要な伝えたいところだけに絞った資料ができて、聞く側としても嬉しいわけです。
だから、プレゼンがうまい方は資料に言葉や説明がそんなになくて、絵で見せてただ喋るだけだったりもします。そうすると資料をみても分からないから、
プレゼン終了後に「話を聞きたいから教えてください」に繋がっていくんですよね。
高町:まだ経験や自信がないけど、5分なら何とかなるかな、3分で終わっちゃっても許されるかな、ってライトな気持ちで臨めるのも新しい人を取り込むのに効果的だと思います。とはいっても、3分で終わっちゃう人はいないですけどね。
福井:ただ、3分となると相当短いですよね。
松岡:短いですよ。3分だと内容で見せるというより参加者の記憶に残らせるっていう意味でLTをしないと何も残りませんから。
ただ、初心者でとりあえずチャレンジという形で自己紹介を3分間やってみたけど、やっぱりできなかった、でもそれでも刺激になったからよかったという人もいますね。
白衣を着て登壇する「総統」という人は3分で60枚くらいのスライドの話をしますよ。まさにLIGHTNING(=稲妻)ですね。
スポンサーの有無は、会全体の雰囲気には影響しない
福井:参加する人たちは参加費を払うのですか?それとも無料?企業のスポンサーなどはついたりするのでしょうか。
高町:参加費が500円くらいかかるものもありますが、それにはウェルカムドリンクとかちょっとしたお菓子が出たりしますね。
松岡:協賛がついたときは企業さんからスポンサーの飲料が出たりして、参加費は無料にすることが多いです。
福井:ちなみにスポンサーとなる企業さんのリクエストというか動機はどこにあるのでしょう。
あまりスポンサー色が強く出てしまうとイベントそのものがつまらなくなってしまうのではないないかとも思うのですが。
松岡:企業さんの一番の目的は採用ですね。その場で求人広告を配らせるので。
ただスポンサーがついたからといって、つまらなくなったとかは感じたことがないですね。
スポンサーの色がついているとかその会社のマイナスになることは言えないとか、発表内容に変化が生じるわけではなくて、
ただスポンサーがいるんだな、そのおかげでイベント終了後の懇親会でビールが飲めるとか、大手企業だと場所を貸してくれたりするんですよね。きれいなオフィスとか夜景が見えるとかだけでもテンション上がるし、マイナスなことは全然なくて。
まだまだこういうコミュニティに参加しているエンジニアは少数派ですし、おそらく全体の1%もいないくらいじゃないかな。
日本ではまだコミュニティ運営とかコミュニティプロデューサーという地位が築かれていないのもありますが、だからこそ僕たちはチャンスだと捉えていますし、これから全国展開していけるんじゃないかなと思っています。
「今後更なる活性化が期待されるエンジニアコミュニティ。運営のスペシャリスト、松岡光隆、高町咲衣 両氏対談(中編)」に続く
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